近年、生活習慣病の増加や感染症の流行などによって、健康への意識がますます高まってきています。このような健康ブームの影響で、人々の健康を食事面からサポートする管理栄養士の役割も重要度を増してきているのが昨今の風潮です。この記事では管理栄養士が果たしている社会的な役割を分かりやすくお伝えしていきます。
目次
多様化する管理栄養士の役割
管理栄養士は専門職です。そのため以前は、あまり一般の人に認知されづらい病院や研究機関などの施設で働くことがほとんどでした。
しかし、最近ではテレビや雑誌などのメディアに出る管理栄養士も多くなりましたよね。
これは、一般の人々からの健康に関する情報の需要が増えたことが影響していると考えられます。高齢者に必要な栄養素を教えたり、ダイエットに効果的な食材を紹介したり、管理栄養士が担う役割は多種多様です。他にも子どもへの食育に携わったり、ジムで体づくりのアドバイスをしたり……食と栄養に関することであれば何でも関われるので、管理栄養士の役割はますます広がってきています。
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現代の食と健康を取り巻く問題
技術の進歩や新たなサービスの登場によって、私たちの生活は日々変化しています。それに応じて日本が抱える問題も変わってきているのです。これらの社会問題の解決を図るのも管理栄養士の役割。ここでは、管理栄養士が尽力している問題を「社会」「食環境」「食生活」の3つに分けてお伝えします。
社会的問題
65歳以上の人口が、全人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれます。
長年、高齢化が問題視されている日本では、全人口のうち65歳以上の人が占める割合は28.9%と非常に高いです。この数字は先進国の中でもトップクラス。しかも、これからさらに増える見込みだというのですから驚きです。高齢社会になった要因として、少子化による若年人口の減少と「人生100年時代」といわれるほど平均寿命が延びていることが挙げられます。
平均寿命が延びたことで注目され始めたのが「健康寿命」です。
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義され、自立して元気に過ごせる期間のことをいいます。
「平均寿命」と「健康寿命」の差が開くということは、日常生活が制限される機関が長くなるということです。
たとえば、寝たきり状態の生活は生きている実感を得られにくく、QOL(Quality Of Life:生活の質)の低下につながります。また、医療費や介護給付費などの社会保障費を消費する期間が増大するため、労働世代の負担は大きくなるばかりです。
今後も高齢者が増えていくであろう日本にとって、「平均寿命」と「健康寿命」の差の縮小は国を挙げて取り組むべき重要な課題と言えるでしょう。
参考:内閣府
高齢化社会における管理栄養士の役割
高齢になると、嚥下機能が低下して食べ物を飲み込みづらくなったり、健康な歯が減って硬いものを食べられなくなったりします。また、身体全体の機能が弱まるので、若い頃よりも栄養素を吸収しにくくなります。そのため、年齢に応じた食事を心がける必要があるのです。
管理栄養士はこのような問題をサポートするエキスパートです。高齢でも食べやすく、栄養も摂取しやすいメニューを考案したり、栄養素を逃がさない調理方法を指導したりしています。
なかには、栄養ケアステーション(地域住民が食に関する相談をできる場所)に登録したり、在宅医療に携わったりして、高齢者やその家族と綿密にコミュニケーションを取りながら、日々の食事をサポートしている管理栄養士もいます。
飽食の時代の食環境問題
近年、食環境における社会問題に「食品自給率の低さ」と「食品ロスの多さ」があります。
食料自給率とは国内の食料消費が国産でどの程度まかなえているかを示す指標で、日本の食料自給率(カロリーベース)は2020年度の調査で37%です。この数値は先進国のなかでかなり低く、2030年度には45%に引き上げることを目標にしています。
食品自給率が低いということは、輸入先の天候や食料需給の影響を受けやすい状況にあるということです。そのほか、国際情勢などによって輸入が制限されてしまうと、食料不足に陥るリスクが高くなってしまいます。
また、世界的な人口増加により需要の増大が見込まれる中、地球温暖化による異常気象や水資源の不足といった問題から、世界的な食糧不足が起こる恐れがあるという声も。
食糧不足が危ぶまれる一方で、食品ロス(フードロス)が問題視されています。最近はSDGsの広がりにより、食品ロスを減らす動きが出てきていますが、依然として日本の廃棄量は多いです。日本の食品ロスは、なんと年間570万トンにも上ります。
恵方巻などのイベント商品が大量に破棄されたり、感染症の影響により牛乳が余ったりと、たびたび問題提起されていますが、根本的な解決には至っていないのが現状です。
食環境を改善する管理栄養士の役割
このような状況の中、管理栄養士は味付けや調理方法を工夫して食べ残しを減らそうとしたり、野菜などの廃棄部分を極力抑えたりとさまざまな努力をしています。
このように食べ残しをしない、捨てる部分を少なくするということはもちろん大事なことです。しかし同じくらい重要なのが、私たちの手元に食べ物が届くまでにどれだけロスを抑えられるかということ。
日本では食品の調理・加工段階で大量の廃棄が出ています。しかも、形が揃った野菜や果物しか店頭に並ばないため、生産時からの工程で考えるとかなりの食品ロスが発生しています。
こういった食品ロスを減らすのも管理栄養士の役割です。給食や食堂などで、過剰発注をしないようにする。見た目が悪い食材でも品質に問題なければ取り入れ、調理方法を工夫する……。さまざまな角度から問題解決を図っているのです。
また、食料自給率の低下を防ぐために、地産地消にも取り組んでいます。その地域で生産されたものを積極的に取り入れることにより、地域の活性化やフードマイレージの削減にもつながり、多くの効果が期待できます。
現代人の食生活
今は24時間営業しているコンビニエンスストアやスーパーマーケット、外食産業や配食サービスなど、食へのアクセスは多種多様。いつでも簡単に食べ物が手に入りますよね。好きなものを好きなだけ食べられる生活は夢のようですが、食生活の乱れによる肥満や生活習慣病の増加が問題です。
肥満傾向が広がる一方で、若い女性の間での過度のやせが指摘されています。外見のスタイルを過度に意識した強いダイエット志向から、20代では5人に1人が低体重(やせ)といわれています。
現代の食生活を支える管理栄養士の役割
食事指導は管理栄養士の重要な役割の一つ。肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病の方に向けて、カロリーや塩分を抑えた食事をおすすめしたり、低体重の方が低栄養状態にならないようにするためのアドバイスをしたりしています。
また、低体重の女性が妊娠すると、その子どもは肥満になりやすいのですが、このことはあまり広く知られていません。専門的な知識を分かりやすくお伝えするのも管理栄養士の役割です。
このため、食と健康に関するセミナー等を行うこともたびたびあります。テレビなどのメディアに出演したり、本を出版したりすることで、普及させようとする管理栄養士もいます。
管理栄養士の役割と専門分野
管理栄養士の国家試験における試験科目は以下の通りです。
ア 社会・環境と健康
イ 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち
ウ 食べ物と健康
エ 基礎栄養学
オ 応用栄養学
カ 栄養教育論
キ 臨床栄養学
ク 公衆栄養学
ケ 給食経営管理論
引用:厚生労働省
このうち「社会・環境と健康」「人体の構造と機能及び疾病の成り立ち」「食べ物と健康」の3分野を専門基礎分野といいます。
社会・環境と健康
人間や生活について理解を深める「社会学」や「食文化論」、「公衆衛生学」「情報処理・統計学」など
人体の構造と機能、疾病の成り立ち
「化学」や「生化学」、人体の構造や機能を理解するための「解剖学」「生理学」「病理学」など
食べ物と健康
食品の各種成分や人体に対しての栄養面や安全面などの影響についての「食品学」「食品加工学」「食品衛生学」「調理学」など
これらの専門基礎分野と栄養学を学んだ管理栄養士は、食に関わるすべての人に対して一人ひとりに合わせたサポートをすることができるのです。
管理栄養士が貢献できること
人にとって“食べること”は何を意味するのでしょうか?
もちろん、人は食べ物を摂取して生命を維持していると言えるので、食べることは生きることです。しかし、それだけではありません。
「家族や友人と一緒に食べたからよりおいしかった」
「ストレスで暴飲暴食してしまった」
「気持ちが落ちて食欲が出ない」
「病気で食べることができず楽しみが減った」
このように、食べることは心の栄養にも影響します。
私たち管理栄養士は、食を通して皆さんが心も身体も健康に生活するためのお手伝いをさせていただいています。そのために、それぞれの専門を磨いているのです。
えいようJoinでは、管理栄養士が各々の役割を果たし貢献できる場を増やすことで、日本全体が健康になることを目指しています。
役割を広げる管理栄養士の未来
今回見てきたように、日本にはさまざまな社会問題があり、それらの解決の一助となるのが管理栄養士の役割です。管理栄養士の関わるところは、今後さらに広がっていくと思われます。
管理栄養士が果たすべき一番の役割は、食を通じて人々の生活をより健康に、そして幸せにすることです。その役割を全うすることで、社会保障費の削減や健康寿命の延伸、食環境の整備などに貢献できます。
えいようJoinは管理栄養士と皆さんを結びつける橋渡し役として、今後もさまざまなプロジェクトを推進していきます。ぜひこれからの活動にご注目ください!