日本の美容市場は年々拡大しており、競合サロンとの差別化は必須です。その一環としてバリアフリーに特化した美容院やネイルサロンなどが増えてきました。バリアフリーな店舗であれば、身体的なハンディキャップを抱える方や、小さなお子様がいる方なども安心して通えます。そのため新たな顧客層の拡大にも繋がり、集客力をアップさせることができるのです!今回はそんなバリアフリーサロンの作り方や導入例をご紹介します。

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バリアフリーサロンが今、注目される理由

バリアフリーという言葉が初めて使われたのは1974年。わずか50年足らずの歴史しかない概念ですが、今ではすっかり世間に浸透し、一般的な言葉となりました。特にバリアフリー新法が施行された2006年以降は、住宅や公共交通機関など、積極的にバリアフリーが取り入れられています。小学校や中学校の教科書にも載っているので、もはや国民全体に知れ渡っている考え方と言えるでしょう。

バリアフリーというと障害者にとっての障壁(バリア)を取り除くことを連想する方も多いと思いますが、高齢者や妊婦、小さなお子様連れの方などにとっての障壁をも取り除くことを意味します。したがって、少子高齢化社会の日本においては、バリアフリーが重要な役割を果たすのです。

政府が主導で取り組んでいるだけあって国や自治体もバリアフリー化に協力的なため、補助金や助成金を得られるケースが多く、始めるならコストを抑えて取り組める今が最も適しているでしょう。

また、このような社会の変化に伴い、お子様連れをメインターゲットとした美容室の登場や、サロンに来店するのが難しい方に向けた訪問美容サービスの普及など、美容業界でも福祉への取り組みが進められています。そのため、サロンにおけるバリアフリー化は今後の集客の要になり得るのです。

早くから取り組むほど、他サロンと差をつけてお客様を囲い込むことができます。バリアフリーサロンが当たり前になってからでは遅いのです。まだ導入店舗が少ないうちに始めることが大切になります。

関連:「今後のターゲットは親子連れ?!ママが気軽に来店できるサロン作り」
関連:「美容の力で高齢化社会を健康に!今後の需要が高まる福祉美容サービス」

ユニバーサルデザインやノーマライゼーションとの違い

バリアフリーと合わせて使われることが多い言葉に「ユニバーサルデザイン」と「ノーマライゼーション」があります。これら3つの言葉は意味が似通っていますが、厳密には違うものです。一度それぞれの定義を整理しておきましょう。

バリアフリー…障害者や高齢者、妊婦や子ども連れの人が生活をしていくうえで障壁(バリア)となるものを除去すること。ここで言う障壁とは物理的な障壁だけでなく、社会的、制度的、心理的な障壁も含む。

ユニバーサルデザイン…新たに障壁が生じないよう、最初から誰にとっても利用しやすくデザインすること。年齢や性別、能力だけでなく文化や言語、国籍の違いがあったとしても利用できるように、製品やサービス、環境を設計する。

ノーマライゼーション…障害のある人とない人が同じように生活できるような社会を目指すこと。障害の有無に関わらず、普通の生活を送れることが当たり前(ノーマル)な社会を実現させるための考え方。

これら3つは密接に関係しており、その中でも根幹をなすのがバリアフリーだと思います。

日本では物理的・制度的なバリアフリーは進んでいるものの、心のバリアフリーはまだまだです。そのため、ノーマライゼーションは理念に留まっており、ユニバーサルデザインもあまり活用されていません。たとえば、必要とする人がいるのに優先席を占領する人や、点字ブロックの上に駐車・駐輪する人、多目的トイレの利用マナーがなっていない人などが一定数います。結局のところ、人の心に左右されるのではないでしょうか。

では、物理的・制度的なバリアフリーは意味がないのかというと、そうではありません。「形から入って心に至る」という言葉がありますが、まずはやってみること、実践するための環境を整えることが大切です。そうすればおのずと心も付いてきます。

それでは、サロンでできるバリアフリーの取り組みについて考えてみましょう。

バリアフリーなサロンとしてできること

美容サロンが取り組めるバリアフリーには、どのようなものがあるでしょうか。ここでは、サロンの外と中、接客・サービスの3つに分けてご紹介します。少しの工夫や心がけですぐに実践できるものもあるので、ぜひサロンづくりの参考にしてください。もう既にバリアフリー化しているという場合も、他にできることはないか探しながら読んでいただければと思います。

店外の設備や外構のバリアフリー化

外から見た時に来店しづらい(=障壁が多い)外観や造りだと、諦めて他のサロンを探す方がほとんどです。そこで、来店を促すためにサロンの外側で気をつけるべきことをまとめました。

スロープ

病気やケガで足を動かしづらい方や、高齢で足が上がりづらい方、車椅子やベビーカーを利用する方などにとって大きな障壁となるのが階段や段差です。そのため、緩やかなスロープを設置するとサロンの中に入りやすくなります。スロープを設置する際は、場所や造りにもよりますが手すりを一緒に設置するとなお良いです。ちなみにバリアフリー法では、傾斜3.8°(1/15勾配)を超えるスロープには手すりを設置することが定められています。

参考:REGARD「車椅子で上り下りできるスロープの勾配 バリアフリーの基準値は?」

凹凸のない地面

上記のように足元に不安がある方々にとっては、砂利や踏み石などの凹凸も障壁になります。砂利については見た目が良く、防犯対策にもなりますが、特定の方から見ると足場が悪く脅威でしかありません。バリアフリーサロンを目指すならば、サロンの入り口まで平らな道を敷くことが重要です。

エレベーター

特に都市部に多いのが、ビルの一角に構えるサロンです。たいていはエレベーターが設置されていますが、古い建物や階数が少ないビルの場合はエレベーターがない場合があります。また、エレベーターはあっても狭くて車椅子では乗り入れしづらい場合もあるでしょう。これから開業や移転を考えている方は、エレベーターについてもよく確認しておくと良いですね。

自動ドア

両手がふさがる車椅子やベビーカーを利用する方でも簡単に通ることができる自動ドア。雨の日などは傘で荷物が多くなりがちなので、両手に荷物を持つ普通の方にとっても利便性は高いです。

また、取っ手をベタベタと触る必要がないので、衛生面の向上にも繋がります。バリアフリーとは直接関係しないものの、新型コロナウイルスの影響で感染症対策が盛んに行われている現在、衛生的なドアは非常に重宝するでしょう。

広い駐車場

車椅子やベビーカーで来店されるお客様は、移動手段に車を利用することが多いです。地方ならなおのこと。しかし、普通の駐車スペースでは狭くてドアを開けきることができず、車椅子やベビーカーを出し入れするのが難しいです。そのため、通常よりも1mほどゆとりを持たせた横幅3.5m以上の駐車スペースを設けると親切ですね。後ろからの出し入れもできるよう、後部にも余裕があるとなお良いです。

すべりにくく網目の小さい側溝の蓋

道路でよく見かける金属製の網目の蓋、グレーチング。アルミや亜鉛、鋼などの金属製が主流ですが、雨の日はすべりやすくなり大変危険です。また、最近のものはベビーカーや車椅子に配慮して隙間が狭くなっていますが、古いものは網目に車輪がはまってしまう恐れもあります。

すべりにくく網目の小さいラバー製やコンクリート製のグレーチングが安く売られているので、サロンの敷地内に危ないグレーチングがあれば交換しておくと安心です。ラバーマットや滑り止めテープを活用するのも良いですね。

※公道の側溝は基本的に自治体が管理しています。勝手に交換せず必ず問い合わせて対応を依頼してください。

店内のバリアフリー化

せっかく来店していただいても、サロン内が過ごしにくい環境だとリピートには繋がりません。逆に言えば、サロン内のバリアフリーを実現できれば長く通ってもらえるということです。まだバリアフリー化されているサロンは少ないので、きちんと環境を整えれば特殊な事情を持つお客様を確保しやすくなります。

広い動線

車椅子に乗りながら、お子様と手を繋ぎながらでも移動できるように、お客様が通る場所は広く、そして途中に邪魔なものがないようにしましょう。このように広い動線を確保することは、スタッフの働きやすさ、ひいては生産性の向上にも影響します。ぜひ一度サロン内のレイアウトを見直してみてはいかがでしょうか。

座りやすい椅子

年配の方や妊婦さんでも長時間楽に座っていられる椅子は、顧客満足度アップのために欠かせません。美容院やネイルサロンなど、ジャンルを問わずどの美容サロンでも施術時間は長めです。長時間同じ姿勢が続くため、身体への負担も大きくなります。少しでも負担を軽減するために、座り心地の良い椅子や寝心地の良い施術台にこだわるサロンも少なくありません。

また、座りやすい椅子とは違いますが、車椅子の乗降介助は慣れていないと大変なので、車椅子に乗ったままでも施術を受けられるスペースを確保しておくのも良いですね。

段差解消

サロン内での転倒事故防止のために、段差をなくすことも大切です。最近は自宅で介護する家庭や高齢者の一人世帯が増えたので、室内用の傾斜の緩やかなバリアフリースロープが手ごろな価格で市販されています。サロン内に段差を解消して、より安全なサロンをつくりましょう。なお、屋内のバリアフリースロープは傾斜4.76°(1/12勾配)までと法律で定められています。

トイレ

すべてのお客様が利用するわけではありませんが、先ほども述べた通りサロンに滞在する時間は長いので、トイレ環境を整えることも重要になります。力の弱い方や車椅子の方でも簡単に開けられるよう、トイレのドアは引き戸が望ましいです。その他の工夫としてはトイレの壁に手すりを取り付けたり、自動洗浄機能を付けたりすることができます。

小さなお子様連れをターゲットにしている場合は、おむつ台を設置するのも喜ばれるでしょう。

接客・サービス

物理的な取り組みだとどうしても費用がかさんでしまいますが、お金をかけなくてもすぐに実践できるバリアフリーもあります。スタッフや周りのお客様の理解を得ることは必要ですが、社会貢献の一環としてぜひ導入を検討してもらえたらと思います。

補助犬対応

補助犬とは目や耳、身体の不自由な人を助ける盲導犬、聴導犬、介助犬の総称です。2002年に補助犬法が施行されてから20年近く経ちましたが、まだ世間では補助犬に対する理解が広まっていません。「他のお客様の迷惑になる」という理由で入店を断られることが多々あります。

しかし、厳しい訓練を受けた補助犬は周りに迷惑をかけることはありません。予防接種やこまめなブラッシングなど、衛生面でもパートナーの方が気を遣っているので、公衆衛生上の問題はないとされているのです。

また、動物アレルギーのお客様がいらっしゃる場合でも、席の位置を遠ざけたり、場合によっては席の移動をお願いしたりすることもできます。予約時に補助犬が同伴すると分かっていれば、同じ時間帯に予約しているお客様にアレルギーの有無を確認するなどの配慮があると、どのお客様も気持ちよく過ごせるでしょう。

このコラムを読んで前向きに補助犬の受け入れを検討してくださる方は、ぜひ店舗の入り口など分かりやすいところに補助犬マークのステッカーを貼っていただけたらと思います。ステッカーは市・区役所の窓口でもらえる他、全国盲導犬施設連合会に送付を申し込むことで手に入れられます。また、厚生労働省のホームページからマークをダウンロードすることも可能です。

関連:認定NPO法人全国盲導犬施設連合会「ステッカー配布受付」
関連:厚生労働省「身体障害者補助犬 5 広報物等(2)」

筆談、指差しシート

予約時にメニューを決めても、サロンでは一人ひとりの状態に合わせて施術していくのでカウンセリング(=ヒアリング)が必須です。しかし、誰もが流暢に話せるわけではありません。そのような場合は筆談や指さしシートで対応しましょう。指さしシートとは外国人のお客様とスムーズにやり取りするために作られた会話シートです。接客でよく使う必要な会話が各言語で表記されているので、それを指でさすだけで円滑なコミュニケーションが取れます。

各地方自治体で発行しているものは飲食店向けが主ですが、それを元にサロン用のシートを作ってみてはいかがでしょうか。外国語に訳すのは難しくても日本語なら簡単に作れます。筆談と合わせて活用すれば、耳が不自由なお客様とも上手くやり取りできるでしょう。

ゆっくり、丁寧に、繰り返す

高齢者や高次脳機能障害を持つ方などに接客する際は、ゆっくり、一言ずつはっきりと話し、必要があれば繰り返すことが大切です。なお、補聴器を付けているお客様には施術前に外してもらいましょう(美容室の場合)。万が一シャワーの水がかかって壊れてしまったら、何十万円もする補聴器を弁償しなければなりません。多少不便でも耳元で話したり、上記の指さしシートを使ったりした方が良いですね。

また、初めて来店されるお客様の場合、前金を頂くことも検討したほうが良いでしょう。財布を持たずに来店し、後で持ってくると言ったものの、来店したこと自体を忘れてしまったというケースも実際にあります。お互いのために、少しやりすぎに感じるくらい確認をすることが大切です。これも心のバリアフリーになります。

人に、社会に優しいサロンづくり

ひと口にバリアフリーと言っても種類が色々とあるので、各サロンで取り組めることも多岐にわたります。このコラムを参考にしながら、あなたのサロンでできることを考えてもらえたら嬉しいです。バリアフリー化は普通のお客様にとっても過ごしやすい環境を整えることでもあるので、試してみて損はありません。

金銭的な問題も国や自治体からの助成金・補助金を上手く活用すれば解決できます。レイアウトを変えたり、新たな設備を導入・設置したりするだけでも対象となるので、今のうちにバリアフリー化を検討してみてください。

関連:「申請しないと損をする!美容サロンで使える返済不要の助成金とは」